2017/05/31 08:00


2017/05/31 08:00

クラウドファンディングで発表された新製品が、実際に出荷される前に中国で安価にコピーされてしまうことはよくある。中国ではそれを指して「山寨死(Shānzhài sǐ)」と呼ぶ。コピーされるのがあたりまえの中国の発明家達に、彼らのコピー対策と、中国で発明を続ける生き残り戦略についてインタビューした。


4つのビジネスを手がける中国の山寨王

Maker友達の中国人で、山寨王と呼ばれる発明家がいる。名前は呉燁彬(イングリッシュネームRobin Wu。以下ウーと表記)。彼はAppleがiPadを発売したとき、わずか60日でIntel製CPUを積んだiPadのニセモノを市場に出して有名になり、以後**「山寨王」**と呼ばれるようになった。

山寨とは山岳要塞という意味で、転じて中央から遠いところにアジトを作って勝手にやるという意味で、品質の悪いコピー品を指す。たとえばiPhoneのニセモノは山寨スマートフォンとか山寨携帯と呼ばれる。

山寨王の人柄やビジネスについては、「現代中国経営者列伝」(高口康太著、講談社刊)に詳しい。混乱しつつ高度成長する中国では、こういう怪しくもスケールの大きい起業家がたくさん登場している。今回は高口さんの取材に同行する形で、山寨王から中国のコピー品について語ってもらった。

「山寨王」ことウーさん。彼の会社で、さまざまな発明品を手にしながら語ってもらった。

ウーさんは深セン大学でコンピュータサイエンスを学び、オリジナルの発明もいくつもしているアイデアあふれる人物で、自分の製造会社を経営しつつ、その製造スキルを中心にいくつもの事業を行っている。

一つ目はローリスク・ローリターンな製造受託のODMビジネスで、ソフトウェア会社の奇虎360(Hi360という検索ツールバーで有名。2016年に共同でノルウェーのOpera Softwareを部分買収したことでも知られる)がカーナビ事業を展開しようとしているのに対し、ハードウェア部分の設計製造を請け負っていて、すでに300万台以上の出荷をしている。

二つ目はハイリスク・ハイリターンな自分の発明品の開発で、ハードウェアスタートアップ企業のビジネスだ。山寨もここに入るが、別にコピー品ばかり作っているわけではなく、彼のブランドのセットトップボックスやスティックPCであるMeeGoPad{.markup–anchor .markup–p-anchor}は日本のAmazonでも販売されている。もともと Intelに勤めていた経歴とコネクションを生かして、Intelが新しいチップを作るときのテスト品(給水タイミングを教えてくれるIoTマグカップなど)を作ったり、個人的に興味のあるARグラスなどを設計開発している。

数ヶ月以内に発売予定のARグラス2つ。ウーさんは2014年頃から、IntelのRealSenceカメラや、中国ではほとんど無名なEPSONのMOVERIOシリーズなど、多くのAR/VRグラスを研究し、自社開発を計画してきた。

三つ目は、中国が多く投資しているエチオピアで、現地で2万人を雇用して靴などを製造しているパートナーと一緒に、電気製品の製造ビジネスを立ち上げた。アフリカでのビジネスは難しいことが多いが、一カ月80ドルほど、10年前の深センと同じコストで労働者を雇うことができ、深センでの過酷な競争を避けられる。アフリカは大きな市場になり得るので、アフリカ人好みのデザインのものを作りたいし、エチオピアで作ったものはEU圏内に関税なしで輸出できる。難易度は高いが得られるものも大きい、ミドルリスク・ミドルリターンと言える。

四つ目が最もハイリターンの夢物語のようなビジネスで、彼はエチオピア各所に太陽電池と映画やゲームなどのスマホ用コンテンツを備えたステーションを設置している。彼の作ったスマホアプリをインストールしている人は、そのステーションでスマホの充電やコンテンツのダウンロードができる。利用は無料だが、このステーションが広く利用されことにより、彼はエチオピアで彼のプラットホームを手に入れることができる。そのアプリをベースに電子決済をしたり、ネット通販をしたりすることで、「俺はエチオピアのアリババ、ジャック・マーを目指す」というスケールの大きい話だ。

深セン政府は1000人ほどの発明家にMaker支援金を交付しているが、彼もその1000人の一人で、コピー品ばかり作っているわけではない。

クラウドファンディングと中華コピー

山寨王のコピー対策を紹介する前に、クラウドファンディングと中華コピーについて少し補足しておこう。

クラウドファンディングにプロジェクトを出すと、そのアイデアが製品として世に出る前に、中国で既にコピー品が売られている、ということはよくある。写真や動画を見ただけでどういうものか分かる、シンプルなオモチャやガジェットは、特にそういうコピー品が多く、オリジナルのプロジェクトがまだ出荷されていないのに、コピー品は10分の1の値段で売られている、ということすらある。

FIDGET CUBE{.markup–anchor .markup–figure-anchor}、FIGMENT{.markup–anchor .markup–figure-anchor}、PRESSY{.markup–anchor .markup–figure-anchor}(赤字の価格は筆者)

上の画像で示した3つのプロジェクトは、それぞれ最初にクラウドファンディングで発表されたものだ。

「FIDGET CUBE」はひところはやった「無限プチプチ」のようなオモチャで、立方体の6つの面それぞれにダイヤルキーやクリック感のあるスイッチなどが付いていて、何かが操作できるわけではないが、無限にカチカチして手持ちぶさたな時間を使うことができる。
「FIGMENT」はスマートフォンでVRを見るときのメガネを、スマホケースと一体化させてしまったもの。
「PRESSY」は、Android端末のイヤホンジャックに差し込むと、別の機能を持つボタンになるものだ。どれも実際に使わなくてもどういうものか分かる、シンプルなアイデアの面白いガジェットだと思う。

中国の通販サイトで見つかる山寨製品(赤字の価格は筆者)

これらのガジェットはそれぞれ、上記のような値段で中国の通販サイトでコピー品が売られている。FIGMENTはまだ出荷できていないプレオーダー中の状態だが、中国製のコピー品のいくつかはすでに日本のAmazonでも買うことができる。FIDGET CUBEやPRESSYも、後追いの山寨製品のほうが出荷ははるかに早かった。

クラウドファンディングでプロジェクトを立ち上げる人にとって量産は難しい仕事で、多くのプロジェクト主はそもそも経験がなくて試行錯誤で進めていることが多い。中国の特に深センまわりには、高速で量産することにたけた会社が多い。深センの公板/公模 700円の粗悪アクションカメラに見るイノベーション{.markup–anchor .markup–p-anchor}のレポートで前に紹介したように、さらにその開発速度を高める周辺業者も多く、量産するためのエコシステムがうまく備わっているため、深センのまわりにいるだけでアドバンテージがある状態といえる。たとえば優れたフランス料理のシェフになるならフランスに、メジャーリーガーになるならアメリカに行くほうが早道なように、エコシステムが備わっているほうが、効果的にクオリティを上げられる。

「コピー品をさらにコピーする」ことはそうしたエコシステムでさらに簡単に行えるため、一度コピー品がヒットするとさらに安いコピー品が作られる。やがてどう作ってもほとんど利益が出なくなる状態を、中国では山寨死と呼ぶ。

山寨王の語るコピー対策

ウー:「Intel版のiPad(ウー氏は自分のiPadをこう呼ぶ)は、『タッチパネルの性能が上がって価格も安くなってきているので、全面タッチパネルでキーボードのないラップトップ、つまりはタブレット端末が来る』という感覚が僕の中にあり、関係する部品メーカーとiPadの発売前からやりとりをしていた。Appleの発表を見て60日で販売できたのは、そういう準備があるからだ。60日は早いけど、人間は誰でも似たようなことを考えるし、同じような部品や技術を使って製品を作るので、たいていの製品は90日もたてばコピーは出てくるものだ。アレンジされてだんだん安くなり、普及していくことはどの世界でもある。日本の大メーカー同士でもあるだろう?

そうやって先進国で発明された高額なMP3プレーヤーやスマートフォン、タブレット端末などが安くなり、世界のみんなが使えるようになることは悪いことじゃない。Intel版のiPadについては、AppleのiPadをほしい人がアレを買ったとはあまり思わないが、安いタブレット端末が欲しい人にとってはいい製品だったと思う。ニセのAppleロゴマークをつけて、だまして売るようなことは僕はやる気がない。すぐニセモノ同士の争いになるし、それよりはオリジナルの価値をつけた別製品を作りたい。僕が作ったのはAppleが作っていない、Intel版のiPadだ。iPadのニセモノではない。

写真や動画を見るだけで簡単に作れるような製品をクラウドファンディングで先に公開するのは、あまりよくないと思う。**アイデアだけが勝負の製品は、最初の90日だけが自分が決めて値段を付けられ、後は多くのコピー業者と利幅を削り合う戦いになる。**自分は競争が嫌いなので、イケると思ったら最初になるべく大量生産して90日で勝負をつけ、新しい製品作りに取り組むようにしている。小さく始めるのは、誰も追いかけてこないような、もっと冒険的なことをやるときだ」

Maker
Faire深センで自らの活動を語るウーさん。こういう登壇者が出てくるのもMaker
Faire深センの魅力だ。

競争が嫌いなので新しいところに行く、新しいことをやるというのは彼の他のビジネスにも共通している。自分のビジネス戦略的なポジションについて、ウー氏はこう語る。

ウー:「自分がしている製造は、日本製などのハイエンド部品を組み立てて製品にするビジネスだ。高品質な部品、カメラのセンサーなどを作るのはソニーなどの日本メーカーや、中国ではHuaweiなどの国の支援を受けたビッグプレーヤーのビジネスで、自分の会社がそこまで行くとは思えない。僕らのような、深センでの組み立て製造業はすごい競争になってきていて、生き残るのに必死だ。

最終的にはベトナムなりアフリカなり、コストの安い国が同じようなクオリティを出せるようになり、中国でやるのは難しくなるだろう。あとどのぐらい続けられるのかはベトナムやアフリカ、追いかけてくる方の都合で決まる。自分が決められるわけではない。自分は競争するよりもライバルが少ないところで勝負する方が好きなので、新しい製品を作ったり、他の人たちより先にアフリカでビジネスをしようとしている。発明し続けるのは競争しないための一つの方法だと思う」

ハイエンド品とローエンド品 上海のChen Rexが考えるコピー対策

また別の友達、上海のChen Rex(以下チェン)はSTARYという電動スケートボードを開発し、Kickstarterで70万ドルを超える出資を集めた{.markup–anchor .markup–p-anchor}。

スタイリッシュな電動スケートボードSTARY。

チェンさんはスタートアップなので、山寨王ウーさんのように手広くビジネスしているわけではなくSTARYに集中している。何度か中国のMakerイベントで会った彼が、「タカス、STARYをクラウドファンディングで支援してくれたBackerの中で、シンガポールに住んでるのは君だけなんだけど、今度シンガポールに行くので、シンガポールのMaker達に会わせてくれない?」というメールが来て、トークイベントを行った。

クラウドファンディングの開発元にメールして会いに行ったことは何度もあるが、プロジェクト主からアポイント依頼が来たのはチェンさんが初めてだ。彼のスケートボードはやっと出荷が始まった段階で、まだ僕のところには届いていないのだが、深センの電気街ではすでにコピー品が、オリジナルSTARYの899ドルに対し200ドルほどで売られている。トーク後に行われたQ&Aで、コピー品について聞かれたチェンさんはこう語ってくれた。

シンガポールのトークイベントでのチェンさん。オレンジホイールがオリジナルのSTARY、緑のホイールのものがコピー品。

チェン:「STARYは電動スケートボードだけど、普通のスケートボードとまったく変わらない見た目にするために、専用のバッテリーやギア、金型など多くの手間とコストをかけている、899ドルの製品だ。Kickstarterで動画を公開してからしばらく、同じようなカラーリングの電動スケートボードを見かけるようになったけど、そういう200ドルほどのニセモノはそういうところにコストをかけていない。

**コピー品を作る人たちは"安く、手早く作る"ことに注力し、初期投資がいる高級品は作ろうとしない。**僕たちはハイクオリティなSTARYを作っていきたいし、STARYが欲しい人は200ドルの電気スケートボードを買う人たちとは別のカテゴリなんじゃないかと思っている。
もし例を挙げるなら、DJIのドローンはハイエンド品で価格も高いけど、見合ったクオリティがあり、他の製品では難しい性能があるからよく売れている。一方、アクションカメラはGoProも後追い品もクオリティがあまり変わらなくなってしまった。僕たちがDJIのように、価格に見合ったクオリティがあると思ってもらえれば続けられるし、これからもクオリティに投資を続けたい」

中国の発明家と「パクリ経済」

彼ら中国の発明家たちと話していると、「パクリ経済 — — コピーはイノベーションを刺激する」(カル・ラウスティアラ、クリストファー・スプリグマン著、みすず書房刊)という書籍を思い出す。
「知財保護がない世界でもイノベーションは止まっていない、たとえばフットボールのフォーメーションや服飾デザイン、レストランのレシピなどはアイデアを保護する仕組みはないが、にもかかわらずフットボールも服も食べ物もイノベーションは止まっておらず、服ではファッションショーで公開された、あまり日常的に着れるとは言いづらい服がだんだんとモディファイされて街中で見かけるようになるのが一般的な流れになっている」といった、知財のないカテゴリのアイデア保護とイノベーションについて述べた書籍だ。

コピーされるのがあたりまえの世界でも発明を続ける中国の発明家たちと話していると、Makerが世界にあふれ、発明することがありふれたことになりつつある今、それを取り巻く知財などの環境についても変わっていくのかもしれないと感じる。

By TAKASU Masakazu/高須正和{.p-author .h-card} on March 23, 2025.

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