中国オープンソース年度報告2025 日本語版を公開しました

AIが変えるオープンソース協働のかたち中国最大のオープンソースアライアンスである開源社(Kaiyuanshe)が発行する『中国オープンソース年度報告 2025』の日本語版を公開しました。 日本語版はこちらから読むことができます。 https://kaiyuanshe.github.io/2025-China-Open-Source-Report/ja/ この翻訳は、ニコ技深圳コミュニティとして2020年度から続けている「中国オープンソース関連文書の日本語訳」活動の一環です。 https://github.com/kaiyuanshe/CNOSSTranslationJP 今年で6年目になります。中国オープンソース年度報告とは『中国オープンソース年度報告』は、中国のオープンソースコミュニティ、企業、研究機関、開発者の動向をまとめた年次報告書です。 開源社は2014年に設立された、中国を代表するオープンソースコミュニティのひとつです。スローガンは、 中国に根ざし、世界に貢献する。オープンソースを新時代のライフスタイルへ。 立足中国、贡献全球,推动开源成为新时代的生活方式 です。 2025年版では、中国のオープンソースを取り巻く状況が、これまで以上に大きく変わっていることが見えてきます。 特に今年の中心テーマは、AIです。今年の報告書は「AI時代のオープンソース」を扱っている2025年版の特徴は、オープンソースAI、フィジカルAI、データ、商業化、Web3.0などが、それぞれ別々の話ではなく、ひとつの大きな流れとして扱われていることです。 以前の中国オープンソースは、GitHubやGitee上の開発者数、企業のオープンソース貢献、OpenRankによる評価などが主な焦点でした。 今年はそこに、オープンソース大規模モデル、モデルプラットフォーム、エージェント、RAG、Context Engineering、フィジカルAI、AI時代の商業化といったテーマが加わっています。 つまり、単に「AI関連の章が増えた」のではありません。 AIによって、オープンソースの協働そのものが変わり始めている、というのが今年版の大きなメッセージです。オープンソースは「公開されたコード」から「社会インフラ」へ今年のデータ篇では、オープンソースを単なるソフトウェア開発の方法ではなく、デジタル社会を支える基礎的な公共インフラとして捉えています。 そのために、OSDGs(Open Source Development Goals、オープンソース発展目標)という枠組みが導入されています。 これは、オープンソースをコード量やStar数だけで見るのではなく、知識共有、教育、人材育成、グリーンコンピューティング、デジタル主権、標準化、透明なルールづくりなどを含めて評価しようとするものです。 昨年まで紹介してきたOpenRankは、Issue、Pull Request、Review、Mergeなどの実際の協働行動をもとに、開発者やプロジェクトの影響力を測る仕組みでした。 今年はその考え方がさらに広がり、「オープンソースが社会や産業の中でどのような価値を持つのか」を測ろうとしています。 これは非常に重要な変化だと思います。 オープンソースは、もはや「技術者がコードを公開する活動」だけではありません。政策、産業、人材育成、国際協力をつなぐ共通言語になりつつあります。オープンソースAIは、性能競争から運用・エコシステム競争へ今年の報告書でもっとも大きなテーマのひとつが、オープンソースAIです。 中国のオープンソースAIは、以前のように「閉源モデルを追いかける存在」ではなくなりつつあります。 DeepSeek、Qwen、Kimiなどのモデルは、単にベンチマーク性能を競うだけではありません。推論コスト、長文コンテキスト、マルチモーダル処理、ツール呼び出し、エージェント、RAG、Context Engineeringなど、実際にAIを使うための基盤づくりに踏み込んでいます。 AIの競争軸は、モデルの大きさだけではなくなっています。 限られた計算資源で効率よく動かすこと。企業内のデータや業務システムとつなぐこと。長い文脈を扱うこと。外部ツールを呼び出して、モデルが単なる対話相手ではなく、業務を進める主体になること。 そうした部分が競争力になっています。 ここでオープンソースは大きな意味を持ちます。 モデルやコードが公開されることで、開発者や企業は自分たちの環境に合わせて試し、調整し、改善できます。中国のAI企業や研究機関がオープンソースを積極的に使うのは、単なる広報ではなく、開発者と産業界を巻き込むための戦略になっています。フィジカルAIが今年らしいテーマになったもうひとつ、今年版でとても重要だと感じたのが、フィジカルAIです。 中国語では「具身智能」と呼ばれ、ロボットが物理世界で見て、考え、動くためのAIを指します。 これまでロボット分野では、展示会や動画で印象的なデモを見せることが多くありました。しかし実際の物理世界は複雑です。床の状態、照明、物体の形状、手先の滑り、センサーの誤差など、実験室では見えにくい問題がたくさんあります。 2025年版の報告書では、中国のフィジカルAIが、そうした「デモ」中心の段階から、モデル、評価、データ、ソフトウェアスタック、ロボット本体を含む全スタックのオープンソース・エコシステムへ進みつつあると説明されています。 これは日本にとっても重要なテーマです。 ロボットやハードウェアは、ソフトウェアだけよりも実験コストが高く、再現性の確保も難しい。だからこそ、データセット、評価ベンチマーク、制御ソフトウェア、シミュレーション、実機での検証手法が共有されることの意味は大きいです。 中国のフィジカルAI分野では、大学、研究機関、スタートアップ、大企業が入り混じり、VLA(Vision-Language-Action)モデル、世界モデル、ロボット基盤モデル、実機評価などに取り組んでいます。 AIとロボット、ハードウェア、製造業がつながる領域であり、中国の強みが出やすい分野でもあります。商業化も「どう稼ぐか」から「エコシステム資産」へ商業化篇も、今年は視点が変わっています。 以前のオープンソース商業化は、クラウドサービス、企業版、技術サポート、コンサルティングなどを通じて、「オープンソースプロジェクトがどう収益を上げるか」という問題として語られることが多くありました。 しかし2025年版では、より広い問いが立てられています。 中国の開発者、企業、モデルプラットフォーム、基盤ソフトウェアプロジェクトが、グローバルなオープンソースエコシステムの中で、どのように持続可能な価値を作るのか。 商業化とは、単にコードを公開してサービスを売ることではありません。開発者ネットワーク、技術標準、データ、評価指標、企業の信頼、国際協力を含むエコシステム上の資産を作ることになっています。 AI時代には、この傾向がさらに強まります。 モデルは単体で存在するのではなく、データ、推論基盤、ツール、API、運用環境、ユーザーコミュニティと一緒に価値を持ちます。オープンソースは、その複雑なエコシステムを作るための共通言語になっています。今回の日本語訳は、AIと人間の協働の実験でもあった今回の日本語版翻訳でも、AIによる協働の変化を強く感じました。 過去の翻訳では、数名のボランティアが章を分担し、人間同士で相談しながら作業を進めていました。 今回は方法を大きく変え、エージェンティックAIを使いました。 まずAIに翻訳させ、人間がレビューする。そのレビュー内容からAIに翻訳ルールを生成させ、次の翻訳に適用する。さらに章が進むごとに、レビューで見つかった問題をルールに追加していく。 つまり、AIに単純に翻訳を任せたのではありません。 人間のレビューをもとに、AI自身がルールを更新し、そのルールに従って次の作業を行う形にしました。翻訳結果だけでなく、翻訳ルールそのものも公開しています。 https://github.com/kaiyuanshe/2025-China-Open-Source-Report/blob/main/ja/TRANSLATION_GUIDE.md これは小さな実験ですが、AI時代のオープンソース協働を考えるうえで象徴的な経験でした。 オープンソースでは、コードだけでなく、ドキュメント、Issue、レビュー、意思決定のルールも重要な資産になります。今回の翻訳では、翻訳ルールがそのまま次の協働の基盤になりました。 この方法は、日本語訳だけでなく、他の言語への翻訳にも使えるはずです。また、来年以降の年度報告や、他の中国オープンソース関連文書の翻訳でも、同じルールを出発点にできます。 毎回ゼロから始めるのではなく、前回のレビューと知見をルールとして蓄積していくことで、速度と品質の両方を上げられる可能性があります。日本にとっての示唆中国オープンソース年度報告2025を読んで感じるのは、中国においてオープンソースが、単なる技術者コミュニティの活動ではなくなっていることです。 AI、ロボット、クラウド、データ、評価指標、商業化、国際協力をつなぐ共通言語になりつつあります。 日本企業や研究機関にとって重要なのは、「中国のオープンソースが伸びている」という表面的な理解にとどまらないことだと思います。 オープンソースは、技術普及、人材育成、標準化、国際協力、商業化を同時に進めるための仕組みになっています。 特にAI時代には、モデルだけでなく、データ、評価、運用、エージェント、Context Engineering、フィジカルAIの実機評価まで含めたエコシステムが競争力になります。そこでは、開発者と企業、大学、行政、コミュニティがどう協働するかが大きな差になります。 日本でも、オープンソースを「無償で公開されたコード」としてだけ見るのではなく、社会や産業を動かす協働基盤として捉える必要があります。 今回の年度報告は、その変化を中国の事例から読み解くための、よい入口になるはずです。 関連リンク 中国オープンソース年度報告2025 日本語版 https://kaiyuanshe.github.io/2025-China-Open-Source-Report/ja/ ...

July 9, 2026 · 1 min · Masakazu Takasu